瀬尾久仁&加藤真一郎ピアノデュオ 公式サイト

瀬尾 久仁 & 加藤 真一郎 ピアノデュオ・リサイタル2007

2007年12月3日(月)19時開演 
東京文化会館小ホール

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シューベルト:自作主題による変奏曲 D813 [連弾]
レーガー:モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ op. 132a [2台ピアノ]
三善 晃:響象Ⅰ&Ⅱ[2台ピアノ]
シューマン:アンダンテと変奏曲 [2台ピアノ、2つのチェロ、ホルン]
ブラームス:シューマンの主題による変奏曲 op. 23 [連弾]
レーガー(アルフォンス・コンタルスキー編):モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ op. 132より 第8変奏 [2台ピアノ、2つのチェロ、ホルン] 世界初演

[共演] 室野良史(チェロ) 松浦健太郎(チェロ)阿部麿(ホルン)
[主催] 瀬尾久仁&加藤真一郎ピアノデュオ
[助成] 朝日新聞文化財団、ロームミュージックファンデーション

~プログラムノート~

加藤真一郎

●フランツ・シューベルト:自作主題による変奏曲 D813 [連弾]

連弾のために最も多くのすばらしい作品を残した作曲家は、間違いなくシューベルト(1797-1828)であろう。《自作主題による変奏曲》D 813は主題と8つの変奏からなり、シューベルト28歳の1824年6~7月、エステルハージ家の音楽教師として滞在中のハンガリー、ゼリスにて完成された。ここで伝記に必ず出てくる伯爵令嬢カロリーネとの恋物語…はひとまず置いておいて、この年に書かれた彼の日記を引用する。

「他人の苦痛を、そして他人の喜びを、誰も理解しない! ひとはいつも出会おうとして、いつもすれ違っている。これを認識したものの苦しさ! 僕の作品は音楽への能力と僕の痛みによって生まれている…」。

この変奏曲では、あたたかいガヴォットの主題は変奏が進むにつれて徐々に明と暗に分かれていき、全くの孤独な世界にまで辿りつく。しかし、彼の死の年に書かれた連弾のための最高傑作《幻想曲》D 940(カロリーネに捧げられた)とは違い、こちらの変奏曲は明るく快活にしめくくられる。
作曲の翌年に早くも出版されたこの作品は、作曲者にとっても愛すべき作品だったようで、死の年に行われた最後のシューベルティアーデ(シューベルトのプライベート・コンサート)でも演奏され、大変な喝采をうけたという。

●マックス・レーガー:モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ op. 132a [2台ピアノ]

レーガー(1873-1916)は、バッハ(1685-1750)への傾倒、ワーグナー(1813-1883)の和声を消化し、ブラームス(1833-1897)の古典尊重の姿勢を継ぐ19世紀ロマン派と20世紀の新しい音楽の境目に立つ作曲家で、シェーンベルク(1874-1951)への多大な影響もあり、近年再評価が進んでいる。レーガーはピアノデュオの演奏も盛んに行い、その活動から多数のピアノデュオのための作品が生まれた。
1914年に書かれた彼の代表作《モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ》op. 132も、オーケストラ版とともに連弾版、そして本日演奏される2台ピアノ版が作られた。優美なモーツァルトの主題(かならず聴いたことのあるトルコ行進曲つきソナタK. 331第1楽章のテーマ)は、変奏曲の名手レーガーならではの様々なスタイルをもつ8つの変奏を経て、彼お得意のフーガによって輝かしく締めくくられる。
ちなみに、大変な大食漢であったレーガーは、その体型と同じように楽譜も音符がぎっしりで重い作品が多いのだが、死の2年前に書かれたこの作品では、彼が晩年にたどりついた「軽い」境地がモーツァルトと共鳴する。彼自身「地上の重み、苦しみのない全くの優雅さ」と述べている(後述のコンタルスキー編も参照されたい)。

●三善晃:響象Ⅰ&Ⅱ [2台ピアノ]

三善晃(1933- )は、日本を代表する作曲家であるとともに、ピアノ教本「Miyoshiピアノ・メソード」が出版されていることからもわかるように、大変ピアノに詳しい。
そんな氏唯一のオリジナル2台ピアノ作品《響象》は、「響きの現象」というタイトルのとおり、ピアノ音響の可能性を限界まで引き出した傑作である。ⅠとⅡではそれぞれ違ったピアニズムが用いられているが、ある事象の表裏といえるような、非常に緊密な関係を持っている。
また、子守唄を思わせる歌の抒情や、鐘のような和音、2台のピアノの交わす響きの美しいゆらぎと変容、その後に現れる激しい表出など、「現代音楽」の持つ無味乾燥としたイメージとは対極にある、実に生々しい音楽である。それはこの作曲者にとってのピアノが、ただの楽器を越えて自身の声のような存在だからなのだろう。
1984年に作曲された「Ⅰ」は委嘱者であるピアニスト田中瑤子と作曲者、「Ⅱ」は1995年に同じく田中瑤子と中川俊郎によって初演された。

●ロベルト・シューマン:アンダンテと変奏曲 [2台ピアノ、2つのチェロ、ホルン]

シューマン(1810-1856)は、妻のクララ(1819-1896)などとしばしば連弾を楽しんだという。しかしその割にはピアノデュオの作品は少なく、特に2台ピアノのための作品は、1843年作の《アンダンテと変奏曲》op. 46がただひとつあるのみである。
クララとメンデルスゾーン(1809-1847)によって初演されたこの作品の成立までには経緯があり、まず「2台ピアノ、2つのチェロ、ホルン」という変わった編成のために書かれたが、メンデルスゾーンの助言もあって後に「2台ピアノのみ」に書き換えられた。作曲者本人は「こういった試みはむずかしい」と述べており、当時シューマンが個性的なピアノ作品の作曲家から普遍的な作曲家への脱皮を図っていたこととも関係があるだろう。
2台ピアノ版は大変よくまとまっている分、原曲にはあった全曲にはりめぐらされた歌曲集《女の愛と生涯》からの引用や、後半のラ・フォリア風の部分などがカットされてしまい、五重奏版のもつ豊かな幻想が犠牲となってしまった。そのため、本日演奏される五重奏版のほうを好む人たちも多い。その一人がこの作品を愛奏したブラームスであり、この版は彼によって『シューマン作品全集』に補遺として収められた。
変奏曲としては大変自由(もしくは複雑)に書かれており、男女の会話を思わせるアンダンテの主題と、《女の愛と生涯》からの引用とが、さながら縦糸と横糸のように織られていく。シューマンにしか書くことの出来ない、大変美しい音楽である。

●ヨハネス・ブラームス:シューマンの主題による変奏曲 op. 23 [連弾]

1854年2月17日、シューマンのもとへ天使(そこにはシューベルトとメンデルスゾーンもいるという)がやってきて、ある歌を耳元でしきりに歌う。それを主題にした変奏曲の第4変奏を書いていた同月27日、ついにシューマンはライン河へ飛び込んでしまう。本人の希望により、彼はただちにエンデニヒの精神病院に収容され、2年後、そこで死んだ。
その一部始終をシューマン家の人々とともに目の当たりにしたブラームスにとって、このことは「人生にこれ以上ない辛い体験」であった。シューマンの死から5年後の1861年、ブラームスはこの「天使が教えてくれた主題」に基づく変奏曲を連弾のために書く。それがこの《シューマンの主題による変奏曲》op. 23である。
主題ののち、幸せに展開していくかに見えるが、第4変奏において世界は突如暗転する。なぜなら、シューマンはここまでしか変奏曲を書けなかったからである。その後の変奏はたくさんの思い出の回想のよう。突如として湧き上がる不安、そして破局。最終第10変奏(ローマ数字でX‥つまり十字架)は葬送行進曲であり、鐘の響きのなか、天使たちに見守られ、葬列は去っていく。
ブラームスにとって、シューマンは師といってもよい恩人だった。シューマンへのレクイエムのようなこの作品を仕上げたのち、ブラームスからは作品が淀みなく生まれ、シューマンより託された十字架を背に「新しい道」を歩んでいく。

●マックス・レーガー(アルフォンス・コンタルスキー編):モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ op. 132 より 第8変奏 [2台ピアノ、2つのチェロ、ホルン]

アルフォンス・コンタルスキー(1932- )は、一歳年上の兄アロイスとともにピアノデュオの世界的権威であると同時に、現代音楽演奏のスペシャリストという印象が強いが、実は大のレーガー・ファンである。この編曲作品は、私たちが彼のもとでレーガーの《モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ》(本日、2曲目に演奏)を学ぶなかから生まれた。
レーガーはこの作品のオーケストラ版を2台ピアノに書き改める過程で、オーケストラ版の第8変奏を「ピアノにそぐわない」との理由で削除し、新たに2台ピアノ版オリジナルの第8変奏を作曲して組み入れた。しかし、削られてしまったオーケストラ版の第8変奏は、捨てるにはあまりに惜しい大変すばらしい音楽であり、後にレーガーの友人シュミット・リントナーによって2台ピアノ用に編曲された。
第8変奏はこのリントナー編を採用すべき、というのがコンタルスキーの考えだったが、私たちはレーガーの意志を尊重した上で、オーケストラ版第8変奏をシューマンの《アンダンテと変奏曲》の編成に編曲することを考えた。この案に大変共感してくださったコンタルスキーは、自ら編曲を手がけられ、私たちに世界初演を託してくださった。私たちの発案から生まれたピアノデュオのための新たな貴重なレパートリーが、今後たくさんの人によって演奏されていくことを願っている(Carus-Verlagより出版予定)。

○アンコール○
サンサーンス:動物の謝肉祭より「白鳥」 Vc. 室野良史