瀬尾久仁&加藤真一郎ピアノデュオ公式サイト

瀬尾 久仁 & 加藤 真一郎 ピアノデュオ・リサイタル2010

平成22年度(第65回)文化庁芸術祭参加公演 
2010年10月22日(金)19時開演
東京オペラシティ リサイタルホール



ラヴェル:マ・メール・ロワ
シューマン:東洋の絵 op. 66
増本伎共子:鐘の曲(カリヨン)
(2008瀬尾久仁&加藤真一郎ピアノデュオ委嘱作品)日本初演
ブラームス:2台ピアノのためのソナタ op. 34b

[主催] 瀬尾久仁&加藤真一郎ピアノデュオ
[助成] 公益財団法人 ロームミュージックファンデーション
*ジャパン・クラシック・フェスティバル2010参加公演

Message

生誕200年を迎えたロベルト・シューマンをめぐるプログラムを組みました。アラビアの詩に触発されて生まれた「東洋の絵」はロマン派を代表する連弾作品であり、シューマン独自の精神が刻印された傑作です。シューマンとは対照的な色彩を用いているにも関わらず、深いとろこでつながりを感じさせられるのが、ラヴェルの「マ・メール・ロワ」でしょう。オーケストラ作品として知られていますが、ラヴェルが友人の子供たちのために童話に題材を得て作曲したこの連弾作品が原曲です。シューマンと親交の深かったブラームスの作品からは、2台ピアノの記念碑ともいえる「2台ピアノのためのソナタ」を取り上げます。そして、ベルリンでの世界初演にてドイツ人たちをも熱狂させた増本伎共子氏の連弾作品「鐘の曲」。極彩色ともいえるアジアの響きから、ピアノデュオの表現の広い可能性を感じとっていただけたらと思います。

瀬尾久仁&加藤真一郎

プログラム・ノート

モーリス・ラヴェル:マ・メール・ロワ
ラヴェル(1875-1937)の連弾組曲《マ・メール・ロワ》(マザー・グース)は、作曲者の友人夫妻の2人の子供たち、MimieとJeanのために書かれ(1908年)、のちにオーケストラにも編曲された。童話から題材がとられた5つの小品からなる。
1眠りの森の美女のパヴァーヌ(眠りの情景)
2親指小僧(森の中に捨てられた子供たち。親指小僧が道に置いてきた目印のパンは鳥たちに食べられてしまった)
3パゴダの女王レドロネット(醜い王女レドロネットがパゴダと呼ばれる中国人形に歓待される。)
4美女と野獣の対話(野獣は美女にプロポーズする。一度は断った美女もその一途な気持ちに打たれて野獣と結婚することを決意する。すると、魔法が解けて野獣は王子に変身する)
5妖精の園(眠っていた王女が王子の口づけで目を覚ます)
これらの物語には様々な人や物が登場し、そこに子供たちの名前からとられた音(例えばMi-mi-eなら3つのミ)が織り込まれる。子供たちは(そして大人たちも)物語の世界へ誘われ、あたかも自分が森の中で眠っていたり、親指小僧になって森を迷ったり、美女と野獣となって対話をするように感じるだろう。

ロベルト・シューマン:東洋の絵 op. 66
シューマン(1810-1856)は1828年に連弾のための《8つのポロネーズ》を書いている。1933年になって出版されたこの曲はシューマンの記念すべき最初の作品であり、連弾が身近な存在であったことがうかがえる。その《ポロネーズ》から20年後、1848年に作曲された6つの即興曲からなる《東洋の絵》作品66は、彼にとって初の本格的、そして代表的な連弾作品である。
シューマンは、11世紀アラビアの詩人アル・ハリーリーの著書「マカーマート」をドイツの詩人リュッケルトが訳したものを読み、いたくその主人公アブ・ザイードと語り手アル・ハーリスに魅了された。《東洋の絵》にはこの2人の人間像が反映しており、作曲者によると、1~5曲目はストーリーと直接の関わりはないが、「悔い改めて、敬虔な」とある終曲は「マカーマート」の最終話によるという。アブ・ザイードは、類い稀な弁舌によって人々を騙してきたが、その最終話において、騙す対象であった人々の敬虔な感情に触れてこれまでの悪事の悔恨に襲われる。・・この作品でのシューマンのモチーフ変容は大変緻密なもので、その点でもアル・ハリーリーの巧緻な詩に対応している。アラビア的な音楽とは言えないだろうが、しかし、作曲者が「マカーマート」を通して見たアラビアの人々、風土などが見事に音楽化されている。

ヨハネス・ブラームス:2台ピアノのためのソナタ op. 34b
ブラームス(1833-1897)の作品34の成立にはいささか複雑な経緯があり、しばしば誤解されてもいる。もとは《弦楽五重奏曲》として書かれたのだが、これは試演ののちに作曲者により破棄され、《2台ピアノのためのソナタ》へと書き改められた。ブラームス自身はこの版を気にいっていたのだが、クララ・シューマンを初めとする友人たちの勧めに従い、ブラームスはさらに「ピアノ五重奏」版を書いた。最終版である《ピアノ五重奏曲》はもちろん傑作であるが、《2台ピアノのためのソナタ》は、その濃密な内容と四楽章からなる堂々とした規模においてピアノデュオ音楽にとっての記念碑的作品といえる。リストの弟子であり、ブラームスのパガニーニ変奏曲を捧げられたピアニスト、カール・タウジヒと作曲者自身により1864年に初演された。
(加藤真一郎)


増本伎共子:鐘の曲
瀬尾・加藤-Duoから「連弾の曲を」というご依頼があった時、「二台ピアノじゃなく、連弾ねえ~」と、少々戸惑った。そして改めて、「連弾で何が出来るか?」と、そのメリットについて考えてみた。そうすると、「一台のピアノで鳴り響く音響の醍醐味」というところに思い到った。それと、初演がベルリン(ヨーロッパ)ということも考えてみた。そこで「カリオン(鐘の曲)」。  ヨーロッパ初演時の予告の新聞記事に、「鐘とは日本の寺院の鐘の音で・・」というのがあったそうで笑ってしまったが、そうでない事は日本の聴衆の皆さまには充分お解りいただけることと思う。お二人の巧みな連携プレイによって、今回もすばらしい「鐘の音」の響きを聴かせていただけることでしょう。
(増本伎共子)

増本伎共子 プロフィール
東京出身。桐朋学園大学音楽学部作曲理論学科(作曲専攻)卒業。現在同校客員教授。柴田南雄、別宮貞雄の諸氏に師事。創作オペラ「浅茅ヶ宿」で1986年度 文化庁舞台芸術創作作品奨励特別賞を受賞。連作歌曲「白秋の世界」(仮題)が1994年度 第五回奏楽堂コンクール(作曲の部)で第一位入賞。
作曲の他日本の伝統芸能の研究にも携わり、「雅楽-日本伝統音楽の新しいアプローチ」「雅楽入門(2000年新刊)」などの著書もある。日本現代音楽協会、作曲家協議会、東洋音楽学会会員。

○アンコール○
シューマン:ちいさな子供とおおきな子供のための12の連弾曲集 op. 85より <夕べの歌>