瀬尾久仁&加藤真一郎ピアノデュオ公式サイト

瀬尾 久仁 & 加藤 真一郎 ピアノデュオ・リサイタル2017

平成29年度(第72回)文化庁芸術祭参加公演
公益社団法人日本演奏連盟/山田康子奨励・助成コンサート
2017年10月19日(木)19時開演
東京文化会館小ホール



リサイタル2017チラシ.pdf

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン (1770-1827):連弾のためのソナタ op. 6 (1797)
フランツ・シューベルト (1797-1828):フランスの歌による変奏曲 op. 10, D624 (1818)
野平一郎 (1953- ):二つの素描~二台のピアノの為の~ (1998/2003-04)
フレデリック・ショパン (1810-1849):ロンド op. 73 (1828)
マックス・レーガー (1873-1916):ベートーヴェンの主題による変奏曲とフーガ op. 86 (1904)


[主催] 瀬尾久仁&加藤真一郎ピアノデュオ
[助成] 公益社団法人朝日新聞文化財団、公益社団法人日本演奏連盟/山田康子奨励・助成コンサート
[後援] 公益社団法人日本演奏連盟、 一般社団法人全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)
[マネージメント] 東京コンサーツ

ごあいさつ

おかげをもちまして、自主リサイタルシリーズは今回で10年、10回を数えるまでになりました。ここまで続けられたのはたくさんの方々の支えがあってのことです。皆さまに心から感謝申し上げます。

10回というのはこの企画をはじめるときの目標でした。紹介したい作品、毎回のテーマを考え、10回分のプログラムを組み立てた時はずいぶん先に感じた10年後ですが、今になってみるとあっという間に、同時に充実した時間と経験を重ねることができました。

10年前のノートには「2017 Beethoven」とあります。いつも人々を励まし、勇気を与えてくれるその音楽は今回の節目にふさわしいと思います。ベートーヴェンにまつわる5つの作品を演奏することで、私たちも新しい力を得て次の一歩を踏み出します。これからもピアノデュオの魅力と可能性をお伝えすることができましたら幸いです。


瀬尾久仁&加藤真一郎

プログラム・ノート

●フレデリック・ショパン:ロンド op. 73
ショパン(1810-1849) 唯一の2台ピアノ作品《ロンド》は1828年に作曲された初期の作品である。フンメルの影響も見られるが、軽やかな主題、華やかな技巧の合間には、印象的なもの悲しい旋律(ユダヤの民謡ともされる)や絶妙な転調による展開がはさまれ、シューマンのいう「花に隠れた大砲」、そして「ベートーヴェンの精神を演奏会場に持ちこんだ」ショパンの独創性をすでに見ることができるだろう。

●フランツ・シューベルト:フランスの歌による変奏曲 op. 10, D624
シューベルト(1797-1828)がウィーンに生まれた頃、ベートーヴェンはすでに同地で活躍しており、ちょうど《ソナタ》op. 6を作曲していた時期にあたる。シューベルトは31年の生涯の大半をベートーヴェンと同じ街で過ごし、その大きな存在を意識しつづけた。彼の連弾作品として初めて出版された《フランスの歌による変奏曲》(1818)をそのベートーヴェンに献呈したことは、この作品、そして連弾へのシューベルトの自信がうかがわれよう。
革命歌を思わせる主題「フランスの歌」はナポレオンの義理の娘、オルタンス・ド・ボアルネの作曲とされている。ウィーン会議後の反動的な時代にあってシューベルトは自由主義者との関わりから警察に拘留された経験をもつが、この作品からは同じく自由主義的であったベートーヴェンへの密かな共感を見ることもできるかもしれない。ベートーヴェンは甥カールとともにこの作品を連弾して高く評価したと伝えられている。

●ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン:連弾のためのソナタ ニ長調 op. 6
ベートーヴェン(1770-1827)のオリジナル・ピアノデュオ作品はすべて連弾のため書かれ、作品番号付き2曲、番号無し2曲の計4曲が現存するのみである。その一曲、1797年頃に書かれた《ソナタ》op. 6は2楽章からなる小規模な作品であるが、冒頭の「運命の動機」を思わせるモチーフをはじめ、不意のアクセントのもたらすユーモア、一転して生真面目すぎる表出等々、実に「ベートーヴェンらしさ」に溢れ、作曲者の生前に何度も印刷されていることからも当時から人気があったことがうかがわれる。それにしても、晩年には《大フーガ》の連弾編曲(op. 134)を自ら手掛け、楽譜商ディアベリから連弾ソナタの依頼もあったベートーヴェンが改めてこの分野に向かったらいったいどんな音楽が生まれたことだろう?

●マックス・レーガー:ベートーヴェンの主題による変奏曲とフーガ op. 86
日本で紹介されることのいまだ少ないレーガー(1873-1916)は私たちがドイツで学んだ最も大切な作曲家の一人で、先生方から熱心な教えを受けた。留学中だった第1回リサイタル(2007)では《モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ》を演奏したが、今回はベートーヴェンの後期作品《バガテル》op. 119-11を主題とした《ベートーヴェンの主題による変奏曲とフーガ》op. 86 (1904)を取り上げる。12の変奏はそれぞれファンタジーに満ち縦横無尽、2台ピアノの傑作の名にふさわしい。終曲、生き生きとしたフーガ上に主題が回帰するとき、それはベートーヴェンへの、そして音楽そのものへの賛歌となって高らかに響く。

現代を代表する作曲家であり、ベートーヴェン演奏、著作で知られる野平一郎氏の作品はプログラムの中心から全体を照らしてくれることと思います。野平先生、ありがとうございます。

(加藤真一郎)

2つの素描

1998年、京都の22世紀クラブ、吉竹達雄さんからの委嘱で作曲。韓伽倻さんとの京都アルティでのコンサートで初演。初演時に断片だった第2曲を2003-4年に改作し、2004年2月の木村かをりさんがサントリー音楽賞を受賞された記念コンサートで、サントリー小ホールにて改訂版により再演。初演時のコンサートではモーツァルトやシューベルト、改訂版の再演時にはドビュッシーとメシアンといういずれも連弾や2台ピアノの可能性を極めた歴史的な作品に囲まれ、どうしたら今日的な2台ピアノの書き方があり得るかを探究せざるを得なかった。作品は2つの楽章からなり、タイトルはパウル・クレーの作品のそれから取られている。いずれもクレーの絵のイメージが、実際の作曲技法へと変換されることでできている。
1. 無秩序な城
大きく3つの部分から成り、その各々は展開が発展しすぎると、再び最初の状態にリセットされて別の方向へと展開するといった螺旋的構造。第1部は、規則的なリズムで反復される1つの音に、いくつもの音が付随して始まる。次第に響きは複数の層に分かれ、さらにその複数の響きは、次第に不規則なリズムとなり、陰影をほどこしながら空間を埋めて行く。この第1部の最後は、次第に響きが整理され、中音域での複雑な和音が2台で応酬し合うことによって次へと続いて行く。
第2部は、やはり規則的に打たれる1つの音から派生する無数の影の旋律線に、不規則にいくつもの音が付随して行く。
最後の第3部は、影ではなく表にあらわれた旋律線を、2台のピアノが時間的にずれながら提示することで始まる。最後は断片的となった旋律線の一部が、ソステヌート・ペダルを介して、空間の中に投射されて行くことで一種の宙吊りの終止となる。
2. 満ち潮に押し流された建築
この作品も3つの部分からなっているが、その3つは第1曲と異なり連続していて、同じ素材が最初から最後まで通底している。冒頭の部分は、2台の各々がごく短い断片を「つぶやきながら」始まる。不規則なリズムやダイナミクスで短い和音が1つ、隣接した音への細かい動きが1つ… 何か「ぶつぶつ」としゃべっているような言葉のイメージである。それは長い時間をかけて、よりまとまった長さの音素材へと推移して行く。
第2部は第1ピアノのうたうような旋律線に、第2ピアノが細かく不規則な影を付加して行く。それが終わると2台ピアノが同時に共奏しながら分断された複数の響きを次から次へ繰り出して行く。こうしたさまざまな出来事が1つの流れの中に継起している。最後は協和的な響きが断続的に聴こえることで、迷宮としての形式の一種の解決となっている。

(野平一郎)

〇アンコール〇
ラヴェル:マ・メール・ロワより 美女と野獣の対話