瀬尾 久仁 & 加藤 真一郎 ピアノデュオ・リサイタル
2012年3月14日(水)19時開演 東京オペラシティ リサイタルホール
ベリオ:水のピアノ 【2台ピアノ】 チェルニー:性格的で華麗な序曲 op. 54 【連弾】 ストラヴィンスキー:ペトルーシュカからの3楽章 【2台ピアノ】 杉山洋一:Diario 2010 【連弾】 (2010瀬尾久仁&加藤真一郎ピアノデュオ委嘱作品)日本初演 モーツァルト:2台ピアノのためのソナタ KV448(375a) 【2台ピアノ】 リスト:「ドン・ジョヴァンニ」の回想 【2台ピアノ】
[主催] 瀬尾久仁&加藤真一郎ピアノデュオ [助成] 公益財団法人 ロームミュージックファンデーション
プログラム・ノート
ルチアーノ・ベリオ:水のピアノ イタリアの作曲家ベリオ(1925-2003)の《水のピアノ》(1965)は、シューベルトの連弾のための《幻想曲》D940とブラームス《間奏曲》op. 117-2についての会話のあとに書かれたという、2分ほどの小品である。イタリアの明るさを自作に取りこんだモーツァルトやリストなど、ドイツ・オーストリアの人々の南へのあこがれに対して、イタリアの作曲家が北の音楽に感じたのはどのようなことだったのだろうか。
カール・チェルニー:性格的で華麗な序曲 op. 54 今ではほぼピアノ練習曲を通してのみその名を知られるチェルニー(1791-1857)の《性格的で華麗な序曲》(1824刊)は、偉大な師―ベートーヴェン―の技法を十分に吸収し、弟子―リスト―の華やかな音楽を準備しているともいえる魅力的な作品で、「チェルニーを優れた教育者として以上に、本物の音楽家として高く評価する」というストラヴィンスキーの言葉もうなずけよう。曲は単一楽章で、同時代人シューベルトの《未完成交響曲》(1822)も連想させるロ短調で書かれている。
イーゴリ・ストラヴィンスキー:ペトルーシュカからの3楽章 《火の鳥》《春の祭典》とともに、ストラヴィンスキー(1882-1971)の3大バレエのひとつである《ペトルーシュカ》(1911)。ストラヴィンスキーは1921年にA・ルービンシュタインより「過去のどの曲よりも難しいピアノ作品を」という依頼を受け、《ペトルーシュカ》の3つの場面、順に「ロシアの踊り」「ペトルーシュカの部屋」「謝肉祭の日」をピアノソロに編曲した《ペトルーシュカからの3楽章》を書いた。このピアノソロ版は、V・バビンによって2台ピアノに編曲されているが、本日は、私たちの恩師・野本由紀夫氏がオーケストラ版(1947)の要素を取り込み再編曲した「野本版」(1984)を演奏する。
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト:2台ピアノのためのソナタ ニ長調 KV448(375a) 数多のピアノデュオ作品を代表する傑作、モーツァルト(1756-1791)の2台ピアノのための《ソナタ》(1781)は、近年の日本では解説の必要がないほど有名な作品であろう。そして、この曲を作曲者とともに初演したアウエルンハンマー嬢のエピソードも、よく知られている。モーツァルトに高く評価されていた演奏とともに、もしその容姿も作曲者の好みに合っていたなら、モーツァルト唯一の「2台ピアノソナタ」は生まれていなかったのかもしれない。祝祭的でオーケストラの響きも連想させる第1楽章、牧歌的で2人の奏者のかけあいが印象的な第2楽章、トルコ風音楽ともいえる活発な第3楽章からなる。
リスト:「ドン・ジョヴァンニ」の回想 S.656 モーツァルトのオペラ《ドン・ジョヴァンニ》をモチーフに、自ら大ピアニストであったフランツ・リスト(1811-1886)が作曲した《ドン・ジョヴァンニの回想》(ピアノソロ、1841)は、楽器を知り尽くした作曲家の本領が発揮された技巧的で壮大な作品である。後年リスト自身によって作られた2台ピアノ版(1877刊)は、ピアノソロ版の魅力をそのままに、2台ピアノでしかできない表現や工夫が至る所に施されている。 興味深いのはその構成で、モーツァルトのオリジナルにおいてドン・ジョヴァンニは放蕩の報いとして地獄に落とされるが、リスト版は「騎士長の石像~地獄落ちのシーン」から始まり、「お手をどうぞ」「シャンパンの歌」へと進む。これはあたかも地獄に引きずり込もうとする力をはねのけてしまうかのようで、自らドンファンの一面を持っていたリストの面目躍如といったところだ。
(加藤真一郎)
杉山洋一:Diario 2010 題名は言うまでもなく「2010年日記」を意味している。自分にとって作曲という行為は、程度の差こそあれ自分をとりまく環境の影響なしにはありえないので、作曲時の記録として間接的で私的な日記のようなものになり、この曲もそうした散文のような体裁をもつ。 瀬尾さんと加藤くんのリクエストで連弾作品を書くことになり、二人でなければなりたたないが、音の数は多くせずに、音のうしろにあるものを増やしてみたいと思った。影絵とか、磁石に吸い付く砂鉄とか、大昔ランプの幻灯機からこぼれてくる写し絵を、不思議そうにながめていたころの想像やら、直截に描かないものをあれこれ思い浮かべては愉しみながら書いた。 日本での初演に際し、あらためて瀬尾さんと加藤くんに心からのお礼をもうしあげたい。
(杉山洋一)
杉山洋一 プロフィール すぎやま よういち 作曲家、指揮者。桐朋学園大学作曲科卒業。1995年イタリア政府から作曲奨学金を得て留学。以後ミラノ在住。指揮をエミリオ・ポマリコ、岡部守弘に、作曲を三善晃、フランコ・ドナトーニ、サンド ロ・ゴルリに師事。指揮者としては、2000年アンサンブル・モデルンとのノーノ「プロメテオ」のツアーを皮切りに、ヨーロッパ各地で活動。国内では、サントリー芸術財団サマーフェスティバルなどで現代作品を指揮する他、東京混声合唱団や東京都交響楽団の定期演奏会にも登場している。作曲家としては、ヴェネチア・ビエンナーレ、ミラノ・ムジカ、ボローニャ・アンジェリカ音楽祭、東京混声合唱団他から委嘱を受けている。1994年イタリアのシエナキジアーナ音楽院で行われたドナトーニのサマーコースにてイタリア作曲家協会賞を受賞。2010年サンマリノ共和国よりサンタアガタ騎士勲章を受勲。現在、ミラノ市立学校で教鞭をとる。
○アンコール○ ドビュッシー:小組曲より《小舟にて》
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